最近、日本のIT関連株を眺めていると、業績や決算以前に「空気」が明らかに変わったと感じる。
SaaSは売られ、グロースは冷遇され、かといって一律にITが終わったとも言い切れない。
何が起きているのかを感情論ではなく整理するために、
まず世界マクロ、その後に日本のIT市場の構造、さらにSaaS・SESといった小カテゴリごとに状況を見ていきたい。
最後に、個別株を見る際の視点をまとめる。
あくまで感情論や投資推奨ではなく、現時点での構造整理としてまとめてみようと考えた。
なので、もちろんここで取り上げる個別銘柄の株価に責任は取らない。
世界マクロから見た現在地
2025〜2026年の世界は、「成長期待を織り込むフェーズ」から「持続性を評価するフェーズ」へと明確に移行している。
高金利環境は続き、生成AIは社会実装が進んだ一方で、収益化は限定的だ。
その結果、世界的にITセクターは
- 将来の夢を語る企業
- 今の構造で耐えられる企業
この二つに強く選別され始めている。
特にソフトウェア分野では、
ARR成長率やユーザー数以上に、「代替可能性」や「構造的な強さ」が見られるようになった。
日本IT市場のミクロ構造
日本のIT市場は、世界と同じ波を受けつつも、独特の構造を持っている。
- エンタープライズ比率が高い
- 個社最適・業務依存が強い
- IT投資は成長目的より、維持・改善目的が中心
そのため、日本ではしばしば
技術が進歩しても、収益性が跳ねにくいという現象が起きる。
この構造は、特にSaaSやDX文脈で顕著に表れている。
SaaSセクターの現状
業務効率化SaaSの逆風
現在、最も評価が厳しいのが業務効率化系SaaSだ。
- 機能差が小さい
- AIによる横断的代替が起きやすい
- 顧客業務へのロックインが弱い
特にCRMや社内管理系は、
「基幹になれているかどうか」で明暗が分かれている。
全体最適を進めるほど、個社最適が犠牲になる。
この構造が、既存Saasプロダクト価値を削っているケースは多いのではないかと感じている。
それでも底が硬いSaaSの共通点
一方で、比較的値崩れしにくいSaaSも存在する。
それらに共通するのは、
- 特定業界に深く入り込んでいる
- 現場データを握っている
- SaaSというより業界インフラに近い
医療、建設、福祉など、
規制・慣習・現場オペレーションが重い領域では、
AIが入っても簡単に置き換わらない。
高成長は望みにくいが、急落もしにくい。
評価はその位置に収れんしつつある。
SES・SIセクターの再評価
SESやSIは長らくネガティブに語られがちだったが、最近は一律に見ないほうがよい。
生き残っているのは、
- 人月ではなく「判断」を売っている
- 要件定義・設計・技術選定に深く関与している
- データ基盤、セキュリティ、アーキテクチャなど
代替されにくい悩みを扱っている
逆に、
- 何でもやります
- 技術スタックが流行語だらけ
- 作業中心
このタイプは、AIの影響を最も受けやすい。
SESの価値は工数ではない。
どこで悩めるかが価値になっている。
セクター別に見た現在の整理
- 汎用SaaS
→ 成長期待剥落フェーズ。差別化が薄いものは厳しい - 業界特化SaaS
→ 成長は限定的だが、構造的には安定 - 判断型SES・SI
→ 地味だが再評価が進行中
個別株を見る際の視点
今後、IT関連株を見る際に意識したいのは、
- AIで伸びるかではなく、AIが来ても壊れないか
- プロダクト依存か、人依存か、構造依存か
- 流動性と事業の持続性
派手な成長ストーリーは消えた。
だが、必要とされるITまで消えたわけではない。
ウォッチしてる銘柄
業界特化SaaS(比較的底が硬いと感じる例)
メドレー(4480)
医療・介護という規制と人手不足が強く絡む領域に深く入り込んでいる。
SaaSというより、医療人材・医療業務インフラの側面が強く、
AIが進展しても業務自体が消えるわけではない点が評価されやすい。
スパイダープラス(4192)
建設現場の写真・帳票・工程管理という「現場起点」のデータを握る。
派手な成長は望みにくいが、業界OSに近い位置づけで、
一気に置き換わるイメージは持たれにくい。
ハンモック(173A)
ニッチだが、特定業務に深く刺さるプロダクト構成。
汎用SaaSの競争からやや外れた位置にいる点は特徴的。
LITALICO(7366)
発達支援・福祉・教育という制度依存度の高い領域に特化。
業務・支援フローそのものに組み込まれており、
SaaSというより「支援インフラ」に近い性格を持つ。
急成長はしづらいが、需要の非景気循環性が下支えになりやすい。
SES・SI(判断型に寄っている例)
TDSE(7046)
Databricksを軸にしたデータ基盤・分析領域に特化。
単純な人月ではなく、要件定義・設計・技術判断に価値が寄っている。
「AIバズワード企業」というより、地味だが実務寄り。
SHIFT(3697)
QAという一見地味な領域だが、エンタープライズ深耕と工程支配力が強い。
AIで一部効率化は進むが、品質責任そのものは消えにくい。
ただし、その効率化余地が逆に「人月圧縮=成長鈍化」と見られ、足元は評価調整局面。
テンダ(4198)
エンタープライズ向けの業務支援・DXを軸に、要件整理から実装までを担うITサービス会社。
典型的なSIというより、顧客業務を前提に「どう作るか」を整理し、形にする役割に近い。
判断・設計の比重が高く、AIによる単純な作業代替の影響を受けにくい。
おわりに
今の日本のIT市場は、悲観というより現実回帰に近い。
DX、SaaS、AIといった言葉が一巡し、
「何が残るのか」を冷静に見極める段階に入っただけだ。
地味で、成長率も高くない。
それでも、構造を理解すれば、見えるものはまだある。


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